
ミラーは1956年に短期記憶の容量は7個程度だとした。例えば無意味なアルファベットを短期記憶で覚えるのなら7文字くらいが限度。最近はその案が否定されてきていて、容量は4個程度ではないかと言う論文が数多く発表されている。(過去の記事参照「人は魔法の数7±2ほど短期記憶できない」)
今日、紹介する論文は逆の話。短期記憶は7±2どころではなく、その3倍に当る20個程度までの情報を保持できたと言う。
ミラーが一つのモーダル(感覚器官)だけを使ったのに対し、今回の研究者は複合モーダルを使った。しかも6個のモーダルを同時にだ。あー、気が狂いそうな実験だな。よくIRB(倫理委員会査定)通ったな。こんなのの被験者になったら、僕はその日一日、ストレスに苛まされるよ。
6個のモーダルは、言葉の記憶(アルファベット)、視覚記憶(アラビア文字を目で覚える)、位置記憶(光る枡の順番を記憶していく)、動作記憶(人の体の動きの動画を記憶)、触覚記憶(体のどこを触られるかを記憶)、音程記憶(ピッチの高さ構えの音と同じか記憶)だった。
この実験はすごいよ。なんと言うか有無を言わせぬ強引な推し進め方。こんな6つのモーダルを同時に与えて、どの刺激を記憶できたかを測ったんだって。一つの刺激につき、6個のアイテムが連続で提示されるので、可能な得点は36点だ(6アイテムx6モーダル)。
その結果、12人の被験者の平均得点は19.75点だった。36点満点だから、こんなストレスフルな環境で半分以上の刺激を覚えていたことになる。みんな頑張ったっちゃったね。まぁそういう訳で、ミラーの短期記憶容量7個説を大幅に上回る約20個の刺激を記憶できたということになるな。
これは目の付けどころがシャープだよ。ミラーのモデルは確かに単体モーダルの試験だった。で、その記憶容量の限界がモーダルの限界なのか、記憶メカニズムの容量の限界なのかは知られていなかった。でもっ今回の研究によると、記憶メカニズムの容量は7よりもずっと大きくて、モーダルごとの限界が一般的に言われる記憶容量の限界だったと言うことだな。
穴の多い研究で、正直言ってこの研究者はあまり最近の文献を読んでいないと僕は思う。引用している文献もたったの9つだ。しかも最も新しい引用文献が90年代のもので3件だけ。なのでつつこうと思えばいくらでも埃の出てくる論文なんだけれど、アイディアが最高に面白いよ。
応用例が広いところも良いね。例えば電話番号とかを覚えるんなら、最初の4桁を言葉で覚えて、後の4桁を目で覚えるとかね。また楽しみな研究が世に出てきたよ。心理学って本当に果てしなく研究されていくんだろうなぁ。
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元の論文:Shatha Samman et al. (2004) Multimodal interaction: multi-capacity processing beyond 7 +/- 2. Proceedings of the human factors and ergonomics society 48th annual meeting 2004. p.386.
検索キーワード:Baddeley, A. D. & Hitch, G. J. 1974. working memory. Miller, G. A. 1956. The magical number seven plus or minus two.
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