
記憶には少なくとも2系統があるようだ。空間認知の記憶と、習慣から覚える記憶。
海馬系統(hippocampal system)は空間認知に関わる記憶に重要な部位だ。空間認知は場所を覚える記憶とも言える。例えば上の迷路でネズミ(rats)を使って実験する。食べ物が場所「A」にあることを覚えさせれば、「B」から迷路を始めても「D」からでも、ゴール「A」をそのネズミは覚えている。これが空間認知の記憶だ。
海馬と空間認知の記憶の関係には裏付けがいくつかある。海馬に特殊な薬(glutamate)を注射すると空間認知の成績が良くなる。また、海馬に損傷を与えると空間的な学習に支障をきたす。
尾状核(caudate nucleus)は習慣から覚える記憶に重要な部位だ。上の迷路で言うと、「D」から迷路を始めて餌が「A」にあることをネズミに学習させる。餌を求めて左に曲がる習慣を覚えるので、「B」から始めさせるとやはり左に曲がって「C」に行ってしまう。これが習慣記憶だ。
尾状核に薬(glutamate)を注射すると習慣記憶の成績が良くなる。また、尾状核に損傷を与えると習慣記憶も損なわれる。そしてここに損傷があると、ネズミは別の記憶回路(海馬の空間記憶)に頼るようになる。つまり曲がり方を覚えるのではなく、ゴール地点を覚えるようになる。
面白いことに習慣学習の能力を比べると、海馬系統に損傷のあるネズミ(rats)の成績が普通よりも良い。これはつまり海馬は時に記憶(特に習慣学習)を邪魔していることを指し示している。
この研究者はさらに感情と記憶の関係も調べ始めている。普通の環境(ストレス無し)ではネズミは空間学習をまず使い、そして習慣学習へと移行する。それが、ストレス下では最初から習慣学習しか使わない。ちなみにストレスは不安を誘発する薬をヘントウ体(amygdalas)に注射して作り出した。
この結果から見るとこんな可能性が見える。不安性の患者たち(強迫神経症、obsessive-compulsive disorder)は習慣学習ばかり使うかもしれない。まだネズミの実験の段階なので応用の実用性には疑問が残るが。
というのがこのニュースの内容なんだけど、とても面白いです。記憶はすべてが海馬によって同じように処理されるのかと思っていたけれど、記憶の内容によって海馬に深く関わったり浅く関わったりするんだな。そしてもうひとつの重要な部位「尾状核」というのも覚えておこう。
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関連する過去の記事:
海馬は記憶の形成と再生に使われる(しんりの手)
新しい記憶を覚えられなくても習慣は覚えられる(しんりの手)
海馬を切除しててんかんも直って、学習もできる(しんりの手)
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関連するウェブ:
マインドマップなどの視覚系情報処理が有用な理由(技術士(化学部門)CANのブログ)ここでは海馬についてもう少し詳しく説明されている。
引用元:雑誌「Monitor on Psychology」October 2004, p.40-41.
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