
野球は日本が劇的な展開で優勝したね。論文の執筆もそっちのけで喉が枯れるまで応援させてもらいました。折角の機会なんで、野球に関する心理学の紹介。
その日の打率が良かった人は、ボールも大きく見えた、という研究結果のニュース。
昔から、ボールがどのくらい大きく見えるかと打者の成績は関係があると言われてきた。
ミッキー・マントル(Mickey mantle)が172メートル(565フィート)の超特大ホームランを打った時、彼は「ボールがグレープフルーツくらいに大きく見えた」と語った。
ジョー”ダッキー”メドウィック(Joe Ducky Medwick)は打撃不振の時、「アスピリンの錠剤を打とうとしているみたいだ」と語った。
今回の研究では、ソフトボールを趣味でする人たち47人を使った。1、2試合を終了したところで、紙に書いた球の大きさからどれが本物の球の大きさかを当ててもらった。ちなみに本物の球は10cmで、紙に書いたのは9cmから11.8cmまでの8種類。
すると、その日の打率が高い人ほど大きい球の絵を選んだ。つまり、実際のソフトボールを大きい球だと知覚していた。相関関数のrは0.29だった。
面白い研究だな。0.29の関係なら何かしらの因果関係があるんだろうな。でもやっぱり相関関数がまだ低いんで、打率には他の要素が大きく関係しているんだよね、当然のことながら。例えば視力とか腕の筋肉の正確な動きとか。そういう要素も入れて、回帰分析なんかしたら面白そう。
または実験方法を変えて、実際の打席に立ってボールがホームプレートを通過する瞬間で視界をさえぎり、「さてボールはどこを通過したでしょう?」なんて聞けば、より打者としての資質がわかるかも。
野球は選手への年棒の一割でも心理学に使えば、すごい大きな効果を生みそうな業種だな。
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元のニュース
See The Ball, Hit The Ball: Study Correlates Perceived Ball Size With Batting Average
元の論文
Apparent Ball Size Is Correlated With Batting Average
Jessica K. Witt1 and Dennis R. Proffitt1

同時に複数の事をすることを「多重課題」(または二重課題)と言う。人間にとって多重課題というのは難しい作業で、大抵は2つの課題を同時にこなすことはできない。それでも一見、多重課題が成功しているように見える時がある。その成功例を説明する2つの理論がある。
(A)受身的な順番待ち理論(passive queuing)では、課題が脳によって処理される順番を待ち、順番が来ると一つ一つ処理される。これは、厳密には多重課題を同時に処理していないけれど、高速で行われれば、見た目では多重課題を処理してるように見える。
(B)積極的に監視理論(active monitoring)では、脳が複数の課題を同時に把握し、同時に処理できる。
これら2つの理論は今まではどちらがより正しいのかの証拠があまりなかったが、今回の研究は(A)の「受身的な順番待ち理論」を支持する証拠だ。
実験はこうだ。視覚課題の組み合わせの二重課題を使った。例えば見た図の形を報告するのとほぼ同時に、見たアルファベットを報告する。ここからの実験方法がとても賢い。2つの課題を交互にやるように強制し(これは多分、画面を交互に表示)、課題を入れ替える間隔を1.5秒と0.1秒で比べた。
すると0.1秒間隔で2つの課題を入れ替えた時の成績は悪く、1.5秒間隔に比べて2倍の時間を要した。もしも脳が2つの課題を同時に把握しているのなら、0.1秒間隔でも交互に2つの課題を処理できるはずだ。しかし、処理の時間が2倍かかってしまったということは、脳はこの2つの課題を同時に処理できずに、一つ一つ別々に処理したのだろう。というのがこの実験結果の解釈なんだと思う。元のニュースにははっきり書いていないけどね。
この実験方法はとても好きだけど、混同要素がまだあるね。多重課題の処理では作動記憶の中央実行部の処理能力が研究の対象物になるべきなんだろうけれど、この実験方法では視覚情報の知覚と認知を測っているとも言えるんじゃない?僕はニュースしか読んでないけれど、論文ではどうやって解説しているのかに興味がある。けどそこまで読む時間が今は無い。
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元のニュース
We Weren't Made To Multitask
Yuhong Jiang, Rebecca Sawa, Nancy Kanwisher, MIT, multitask, passive queuing, active monitoring, psychological science, multitasking dual task, central executive, 心理学、短期記憶、作動記憶、