
以前から創造性(creativity)と精神病気質(psychopathology)は関係があると言われてきた。実際に多くの芸術の分野で、その関連性が調べられてきていて、創造性と精神病の関係が示されてきている。今回の論文では、ジャズ音楽家40人を調べた結果でもその関連性が示されたという。
ジャズ辞典(the encyclopaedia of jazz, by Feather 1960)などを使い1945年から1960年に活躍したジャズ音楽家40人を調べた。調べた時点(2003年)で既にこの40人(下表)はすべて死去しており、調べる方法としては、彼らについての叙伝、伝記を参考にした。その結果、一般人に比べて、ジャズ音楽家は精神病気質が多く、刺激追求性の性格(sensation seeking)も多かった。
統合失調症(schizophrenia)
40人中の3人が統合失調症だった。バド・パウエルは統合失調症か統合失調性感情障害(schizoaffective disorder)だったと見られる。彼はありもしない恐怖(誇大妄想)に怯え、幻聴を聞き、奇妙な表情を作ったりし、てんかんの症状があった。
セロニアス・モンクは数日間眠らずに歩き回ったり、知人の顔を認識できなかったりした。これは中毒性精神錯乱(substance intoxication delirium)の症状だ。
マイルス・デイビスは誇大妄想の恐怖に怯え、幻聴があった。
気分障害(mood disorders)
40人中の11人が気分障害だった。ポール・デズモンドとビル・エバンスは気分変調性障害(dysthymic disorder)だった。彼らは自尊心が病的に低く(low self-esteem)、悲観的な展望を抱いていた。
他に気分障害があったと見られるのはマイルス・デービス、ギル・エバンス、スタン・ゲッツ、チャールズ・ミングス、ジェリー・マリガン、チャーリー・パーカー、アート・ペッパー、オスカーペティフォード、フランク・ロソリーノ。
不安障害(anxiety disorders)
アート・ペッパーとジョン・コルトレーンは不安障害があった。アート・ペッパーは皿洗いを何度も何度も繰り返し(obsessive compulsive)、血を病的に怖がった。ジョーン・コルトレーンは強迫神経症(obsessive compulsive)の症状があり、病的に練習をし続け、甘いものを病的に食べまくり、完璧なマウスピースを病的に求め続けた。
薬物
40人中の21人がヘロインにより精神的な異常性が見られ、11人はアルコール問題があり、3人(マイルス・デービス、アート・ペッパー、ビル・エバンス)はコカイン問題があった。
刺激追求(Sensation seeking)
40人中の9人は刺激追及の性格が見られた(チェット・ベイカー、チャーリー・パーカー、アート・ペッパー、スタン・ゲッツ、サージ・チャロフ、デクスター・ゴードン、ポール・チャンパーズ、フィリー・ジョー・ジョーンズ、スコット・ラ・ファロ)。刺激追求の傾向はDSM(精神疾患の分類と診断の手引書)のクラスターBパーソナリティー障害(ドラマティック・タイプ人格障害)とだぶる。刺激追求はつまり「抑制からの開放」(disinhibition)を示す。彼らはパーティー好きで、社交的な飲みが好きで、複数のパートナーとセックスし、新しく(しばしば違法な)経験や薬物が好きだ。
具体的に言えば、複数の薬物を混ぜて使用したり、ウイスキーなどの強いアルコールをボトル数本開けたり、何人もの女と短期間に寝まくったり、時に同時に複数の女と寝たり、速いスポーツ・カーに乗ったりする。
ふーん、確かに一般人に比べると、この40人のジャズ軍団では精神病や刺激追求傾向の人の発生率が高いな。ジャズのように創造性の高い仕事の人たちにこういう精神病的なものが見られるのは何かの必然的な関連があるんだろうね。
それとこの論文の結論はあくまでも特定の群によく見られる特定の症例、というだけ。原因と結果を示してはいない。つまり精神的にちょっとおかしい人がよいジャズ音楽家になるとは限らない。そして逆でもない。ジャズ音楽家だからといって精神的におかしいという訳でもない。この辺の原因と結果(cause and relation, cause and effect)は調べるのはとても難しい。それでもいくつか試みている論文があるんで、それはそのうちに紹介したい。
いや、しかしこの論文は、ジャズの一番おいしい時期をさらっとなぞっていて読み物として面白いね。だれかロック・ギタリストとかでもやってくれ。
僕はジャズは趣味程度に聴くだけなんで間違いなどあったらご指摘ください。
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関連する過去の記事:
ブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチ・ボーイズ)の精神病
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今回の研究に使われたジャズ・ミュージシャン、40人
トランペット
Dizzy gillespie, Fats navarro, Clifford Brown,
Miles Davis (マイルス・デイビス Kind of Blue)
テナー・サックス
Wardell Gray,
ベース
Ray Brown, Oscar Pettiford, Charles Mingus, Paul Chambers, Scott la Faro,
トロンボーン
J.J. Johnson, Frank Rosolino, Bill Harris,
バリトン・サックス
Serge Chaloff, Gerry Mulligan, Pepper Adams,
ドラム
Kenny Clarke, Art Blakey, Philly Joe Jones, Shelly Manne,
アルト・サックス
Charlie Parker 映画「バード」
Art Pepper, Paul Desmond, Eric Dolphy,
アルト/テナー・サックス
sonny Stitt
ピアノ
Bud Powell バド・パウエルThe Genius of Bud Powell, Vol. 1 Thelonious Monk, Erroll Garner, Lennie Tristano,
ギター
Charlie Christian,
ビブラフォン
Milt Jackson
アレンジャー
John Lewis, Gil Evans
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元の論文:Geoffrey I. Wills. Forty lives in the bebop business: mental health in a group of eminent jazz musicians. British jouranl of psychiatry. 2003. v.183. 255-259.
検索キーワード:心理学、臨床心理学、病因、sensation seeking, personality psychology, clinical psychology,
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