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呆けないためにはダンス!

olddancers.jpg           verghese.jpg

どんな人が呆けて、どんな人が呆けないんだろう?日常の活動と関係があるんだろうか?この研究結果によると、ダンスをする人は呆ける確率がダンスとしない人に比べてたったの24%だった。


 この研究者は15の活動(頭を使う6つの活動と体を使う9つの活動)について、呆け具合を調べた。これによると特定の活動をするひとは呆ける率がとても低い。 例えば一番上の「ボード・ゲームで遊ぶ」の項目を見る。ボード・ゲームというのはチェスとかの頭を使うゲーム。ボード・ゲームを「ほとんどしない」という人の中で呆けてしまった人の数を基準(1.00)として、「よくする」と答えた人の中で呆けた人の比率を比べてみた。するとこの群のほうは呆ける確率が基準に対してたったの0.26だった。つまり呆ける確率が4分の1ほどだった。


このように大きな違いが見られたのは3つの認知活動で、ボード・ゲームが0.26倍。楽器を演奏する人で0.31倍。ダンスをする人で0.24倍、というのがもっとも顕著だった。 これに対して運動も効果があったが、効果は小さかった。よく歩く人はあまり歩かない人に比べて0.67倍の呆ける確率だった。泳ぐ人は泳がない人に比べて0.71倍の呆ける確率だった。


要するに、認知活動の中でも激しく頭を使うものがボケを防いでいるのかもしれない。チェスもそうだし、楽器の演奏もそうだし、ダンスでも相手のことを考えたり、リズムに合わせて体を動かしたり、周りを気にしたりと頭をより使う。


とても面白いデータだね。クロスワードとかそこそこ効果(0.59倍)があってもチェスとかには敵わないんだな。クロスワードとかのパズルは確かにそれほど高次の脳活動ではないもんな。対戦相手がいたり、創作活動をしたり、というのは脳を使おうと思えばいくらでも使えるところが、パズルとかとは違うとも言える。日本では頭を鍛えるゲームが売れているらしいけれど、パズルで頭を鍛えるのは効果が薄いのかもしれない。


ちなみに注意点として、この結果は単に相関関係を示しているのみで、因果関係は示していないです。つまりダンスをするのがボケを防ぐ、というのは一つの解釈に過ぎず、もしかしたら逆に、呆けない人だからダンスができているのかもしれない。


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元の論文: Verghese, (2003). Leisure activities and the risk of dimentia in the elderly. The new england journal of medicine. 2003. June 19. p.2513 検索キーワード:心理学、認知心理学、老人学、社会心理学、任天堂、脳を鍛える大人のDSトレーニング、川島隆太教授監修、

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打率の高い打者はボールが大きく見える
barry bonds

野球は日本が劇的な展開で優勝したね。論文の執筆もそっちのけで喉が枯れるまで応援させてもらいました。折角の機会なんで、野球に関する心理学の紹介。

その日の打率が良かった人は、ボールも大きく見えた、という研究結果のニュース。

昔から、ボールがどのくらい大きく見えるかと打者の成績は関係があると言われてきた。
ミッキー・マントル(Mickey mantle)が172メートル(565フィート)の超特大ホームランを打った時、彼は「ボールがグレープフルーツくらいに大きく見えた」と語った。
ジョー”ダッキー”メドウィック(Joe Ducky Medwick)は打撃不振の時、「アスピリンの錠剤を打とうとしているみたいだ」と語った。

今回の研究では、ソフトボールを趣味でする人たち47人を使った。1、2試合を終了したところで、紙に書いた球の大きさからどれが本物の球の大きさかを当ててもらった。ちなみに本物の球は10cmで、紙に書いたのは9cmから11.8cmまでの8種類。

すると、その日の打率が高い人ほど大きい球の絵を選んだ。つまり、実際のソフトボールを大きい球だと知覚していた。相関関数のrは0.29だった。

面白い研究だな。0.29の関係なら何かしらの因果関係があるんだろうな。でもやっぱり相関関数がまだ低いんで、打率には他の要素が大きく関係しているんだよね、当然のことながら。例えば視力とか腕の筋肉の正確な動きとか。そういう要素も入れて、回帰分析なんかしたら面白そう。

または実験方法を変えて、実際の打席に立ってボールがホームプレートを通過する瞬間で視界をさえぎり、「さてボールはどこを通過したでしょう?」なんて聞けば、より打者としての資質がわかるかも。

野球は選手への年棒の一割でも心理学に使えば、すごい大きな効果を生みそうな業種だな。

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元のニュース
See The Ball, Hit The Ball: Study Correlates Perceived Ball Size With Batting Average

元の論文
Apparent Ball Size Is Correlated With Batting Average
Jessica K. Witt1 and Dennis R. Proffitt1


多重課題は一つ一つ処理される
security checkpoint


同時に複数の事をすることを「多重課題」(または二重課題)と言う。人間にとって多重課題というのは難しい作業で、大抵は2つの課題を同時にこなすことはできない。それでも一見、多重課題が成功しているように見える時がある。その成功例を説明する2つの理論がある。

(A)受身的な順番待ち理論(passive queuing)では、課題が脳によって処理される順番を待ち、順番が来ると一つ一つ処理される。これは、厳密には多重課題を同時に処理していないけれど、高速で行われれば、見た目では多重課題を処理してるように見える。
(B)積極的に監視理論(active monitoring)では、脳が複数の課題を同時に把握し、同時に処理できる。
これら2つの理論は今まではどちらがより正しいのかの証拠があまりなかったが、今回の研究は(A)の「受身的な順番待ち理論」を支持する証拠だ。

実験はこうだ。視覚課題の組み合わせの二重課題を使った。例えば見た図の形を報告するのとほぼ同時に、見たアルファベットを報告する。ここからの実験方法がとても賢い。2つの課題を交互にやるように強制し(これは多分、画面を交互に表示)、課題を入れ替える間隔を1.5秒と0.1秒で比べた。

すると0.1秒間隔で2つの課題を入れ替えた時の成績は悪く、1.5秒間隔に比べて2倍の時間を要した。もしも脳が2つの課題を同時に把握しているのなら、0.1秒間隔でも交互に2つの課題を処理できるはずだ。しかし、処理の時間が2倍かかってしまったということは、脳はこの2つの課題を同時に処理できずに、一つ一つ別々に処理したのだろう。というのがこの実験結果の解釈なんだと思う。元のニュースにははっきり書いていないけどね。

この実験方法はとても好きだけど、混同要素がまだあるね。多重課題の処理では作動記憶の中央実行部の処理能力が研究の対象物になるべきなんだろうけれど、この実験方法では視覚情報の知覚と認知を測っているとも言えるんじゃない?僕はニュースしか読んでないけれど、論文ではどうやって解説しているのかに興味がある。けどそこまで読む時間が今は無い。

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元のニュース
We Weren't Made To Multitask

Yuhong Jiang, Rebecca Sawa, Nancy Kanwisher, MIT, multitask, passive queuing, active monitoring, psychological science, multitasking dual task, central executive, 心理学、短期記憶、作動記憶、
【ブログの実験】検索用として過去の文章を一括表示
テスト。ブログの検索機能が貧弱なんで、過去の記事の文章をまとめて一箇所に置いてみる。このファイルを特定のキーワードで検索をすれば探している記事が見つかるはず。まだ準備中で未完です。

psychnotelog1.txt
これはうまくないなぁ。2005年の1月2月だけでテキスト・ファイルの大きさが140kbだ。このブログでアップできるファイルの大きさは250kbまで。どうしよう。
【記憶】海馬は空間記憶、尾状核は習慣記憶。
packardmaze.jpg


記憶には少なくとも2系統があるようだ。空間認知の記憶と、習慣から覚える記憶。

海馬系統(hippocampal system)は空間認知に関わる記憶に重要な部位だ。空間認知は場所を覚える記憶とも言える。例えば上の迷路でネズミ(rats)を使って実験する。食べ物が場所「A」にあることを覚えさせれば、「B」から迷路を始めても「D」からでも、ゴール「A」をそのネズミは覚えている。これが空間認知の記憶だ。

海馬と空間認知の記憶の関係には裏付けがいくつかある。海馬に特殊な薬(glutamate)を注射すると空間認知の成績が良くなる。また、海馬に損傷を与えると空間的な学習に支障をきたす。


尾状核(caudate nucleus)は習慣から覚える記憶に重要な部位だ。上の迷路で言うと、「D」から迷路を始めて餌が「A」にあることをネズミに学習させる。餌を求めて左に曲がる習慣を覚えるので、「B」から始めさせるとやはり左に曲がって「C」に行ってしまう。これが習慣記憶だ。

尾状核に薬(glutamate)を注射すると習慣記憶の成績が良くなる。また、尾状核に損傷を与えると習慣記憶も損なわれる。そしてここに損傷があると、ネズミは別の記憶回路(海馬の空間記憶)に頼るようになる。つまり曲がり方を覚えるのではなく、ゴール地点を覚えるようになる。

面白いことに習慣学習の能力を比べると、海馬系統に損傷のあるネズミ(rats)の成績が普通よりも良い。これはつまり海馬は時に記憶(特に習慣学習)を邪魔していることを指し示している。


この研究者はさらに感情と記憶の関係も調べ始めている。普通の環境(ストレス無し)ではネズミは空間学習をまず使い、そして習慣学習へと移行する。それが、ストレス下では最初から習慣学習しか使わない。ちなみにストレスは不安を誘発する薬をヘントウ体(amygdalas)に注射して作り出した。

この結果から見るとこんな可能性が見える。不安性の患者たち(強迫神経症、obsessive-compulsive disorder)は習慣学習ばかり使うかもしれない。まだネズミの実験の段階なので応用の実用性には疑問が残るが。


というのがこのニュースの内容なんだけど、とても面白いです。記憶はすべてが海馬によって同じように処理されるのかと思っていたけれど、記憶の内容によって海馬に深く関わったり浅く関わったりするんだな。そしてもうひとつの重要な部位「尾状核」というのも覚えておこう。

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関連する過去の記事:
海馬は記憶の形成と再生に使われる(しんりの手

新しい記憶を覚えられなくても習慣は覚えられる(しんりの手

海馬を切除しててんかんも直って、学習もできる(しんりの手

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関連するウェブ:
マインドマップなどの視覚系情報処理が有用な理由(技術士(化学部門)CANのブログ)ここでは海馬についてもう少し詳しく説明されている。

引用元:雑誌「Monitor on Psychology」October 2004, p.40-41.

検索キーワード:心理学、認知心理学、Mark Packard, Texas A&M University, 短期記憶、長期記憶、作動記憶、生物心理学、比較心理学、
運転中に携帯を使うと事故率4倍は反応速度や不注意性盲目のせい
strayerdriving.jpg

車を運転しながら携帯電話を使用すると事故を起こす確率が非常に高くなる。それはなぜだろうか、という研究のニュース。

ユタ大学の110人の大学生を被験者として使用。擬似運転の機械(ドライビング・シミュレーター)で運転をさせ、被験者には時にはハンズフリー携帯電話(つまり手に持たないで使うタイプ)を使用してもらった。

==過去の実験で見つけたこと==
1.携帯電話を使用中は事故に繋がるような運転になった。

2.携帯は手に持つタイプでも手放しで使うタイプでも運転に同等の悪影響を与えた。

3.携帯の会話は運転に悪影響だが、ラジオを聴いて理解することや同乗者と会話することは運転に差しさわりが無かった。


==今回の実験で見つけたこと==
4.運転に専念する者に比べて、携帯電話(ハンズフリー)を使用中の運転者は前走している車にぶつかる(オカマを掘る)、ブレーキの動作が遅れる、またはそれを防ぐために車間距離をより多くとる、などの行動が見られた。

5.運転に専念する者に比べて、携帯電話(ハンズフリー)を使用中の運転者は道端の広告看板の記憶が悪かった。

6.尚、上記について、携帯電話(ハンズフリー)を使用している者も使用しない者も同等の時間だけ目線を広告看板に向けていた。なのでこれは記憶(の記銘、保持、想起など、または物の認識)の問題だ。

この研究者はこれを「注意不足型の盲目」(inattention blindness)と呼んでいる。
まとめると携帯電話で会話している運転者は運転能力がいろいろな面で劣る。目に映ったものを認識していない時があるので、赤信号や歩行者に気づかない時もあるし、反応速度も遅くなるので前走する車にぶつかる時もある。こういった要素のため、携帯電話中の運転は事故率が4倍という結果に繋がるのだろう。


随分と用意周到な実験だな。一研究者として単純に尊敬するよ。特に項目の5から6に掛けてしっかりと研究しているのが良くできていると思う。広告看板に目を向けていてもそれを(おそらく)記憶記銘せずに見過ごしている(厳密に言うと見てはいるか)というのが面白いね。これが広告看板でなく交通標識などでも見過ごしちゃうのかな。それは危険だな。

心理学がこういった原因を究明するのに役立つのは嬉しい。これが更に運転する人を啓蒙したり法律の改正(運転中の携帯電話使用の一部規制)などに繋がって、交通事故が減っていくと良いね。

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元のニュース:Cell Phone Users Drive 'Blind'
Study Explains Why Hands-Free Phones Just as Bad as Hand-held


論文(PDF)cell phone-induced failures of visual attention during simulated driving

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関連する過去の記事
ハンズ・フリーでも運転中の携帯は事故率4倍(しんりの手)

検索キーワード:心理学、David Strayer, Frank Drews, William A. Johnston, cell phone, drive, driving, hand-held, hands-free, inattention blindness, University of utah, ユタ大学、inattentional blindness, 非注意性盲目、二重課題、多重課題、認知心理学、短期記憶、長期記憶、作動記憶、作業メモリ、
話を聞く時、男は右半球を使わない
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話を聞く時、男は右半球のみを使い、女は両半球とも使っていた。

男女の被験者それぞれ20人を使い、小説(ジョン・グリシャムのザ・パートナー)の朗読を聞いている時の脳の活動の様子をfMRI(機能的磁気共鳴映像法)で調べた。その結果、過半数の男性は専ら側頭葉(temporal lobe)の左半分のみを使っていた。この部分は言語理解と関わりの強い部分だ。これに対し、大多数の女性は側頭葉の右も左も使っていた。側頭葉の右は言語以外の音に関する部位だ。

この研究者は、これは男女差を表しているが、どちらが優れているかを示すものではない、と語っている。

ふーん、論文は読んでないけどニュースを読む限りでは男女差がはっきり現れているみたいだな。男は言語脳を専ら使っていたということは、言葉の意味だけを理解しようとしているのかな。女は他の音分析の部分の脳も使っていたということは、言葉の意味の他にも声の調子とか話者の感情とかいろんな付随情報も理解しようとしているのかな。

将来、こういった研究が男女の会話を助けるものになると良いね。例えば上の僕の解釈が本当だとしたら、男は皮肉とかを理解せずに言葉のままに受け止める傾向がある、その事実を女も理解して会話の方法を変えてみる、とかね。ていうか、研究でまだ証明されていなくても、男は皮肉とかを理解するのが大変なんだよ。その辺を女は考えてくれ。これはアメリカ女も日本女も。

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元のニュース:インディアナ大学:NEWS FLASH: Men Do Hear -- But Differently Than Women, Brain Images Show (2000年)

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追記(2006年1月29日)
男女差について、もうひとつ別の記事を書こうと思ってたんだけど、書く暇がなさそうなので、自分用のメモに記事のリンクを貼っておきます。
内容:男女差を調べた項目は、記憶(memory tasks)、言語(verbal tasks)、視覚空間(visual spatial tasks)、動作(motor tasks)。これをfMRIにより、同じ課題をするときの男女の違いを調べた。
元のニュース:Men and women differ in brain use during same tasks

検索キーワード:心理学、男女差、言語認知、言語理解、John Grisham, The partner, 機能的磁気共鳴画像法、
【コーヒーの影響2】短期記憶と反応速度
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カフェインを摂取すると短期記憶の成績が良く、反応速度が早かったというニュース。

15人の健康な成人の被験者を使い、カフェインの作用を調べた。被験者はカフェイン100mg(コーヒー2杯分)かプラシーボかを飲んだ。ただしどちらを飲んでいるのかは知らなかった。その前にはカフェインを12時間は摂取せず、ニコチンは4時間摂取しなかった。

記憶テスト(短期記憶)のやり方はこうだ。アルファベットが一つずつ順番に見せられる。そして時折、2つ前のアルファベットはこれですか?という質問にイエスかノーのキーを押して答える。例えばアルファベットが「E,K,B,L」と示された時に2つ前が「K」かと聞かれれば答えはイエスとなる。
カフェインを摂取した群は記憶テストの成績が良く、反応時間も早かった。

更にfMRIにより、脳の活動を調べた。するとカフェインを摂取した群は前帯状領域(anterior cingulate)という脳の注意(attention)を制御する部分が活性化していた。プラシーボの群には変化が見られなかった。

カフェインは世界で最も摂取されている興奮物(stimulant)で、世界平均で76mg(コーヒー1.5杯)、アメリカでは238mg(コーヒー4.5杯)が一日に飲まれている。

ということなんですが。どうですか、コーヒー。効果は確かにあるみたい。でも僕は薬物を異常に警戒する性質なんでコーヒーは滅多に飲みません。年に10杯くらいかな。ビタミン剤も違法ドラッグも煙草もやらないよ。なんでも食うし、食う量は人の3倍なんでビタミン剤はもともと要らないけどね。唯一、摂取するのはアルコールだけだな。これは毎週末には欠かしません。

カフェインの短期的な利点があるのは認めるけど、長期的には害は無いんだろうか。それと短期的な効果も、摂取後の何分から何分まで続くんだろう。その辺の文献を読みたいなぁ。

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関連する過去の記事:
【コーヒーの影響1】覚醒作用(しんりの手)

元のニュース:Coffee Jump-starts Short-term Memory

検索キーワード:心理学、放射線診断部、radiology, psychology, physiology, 生理学、興奮剤、刺激物、興奮誘発剤、覚醒剤、タバコ、たばこ、マリファナ、marijuana, 大麻、

ジャズ音楽家は精神病気質や刺激追求の傾向
jazzpianist

以前から創造性(creativity)と精神病気質(psychopathology)は関係があると言われてきた。実際に多くの芸術の分野で、その関連性が調べられてきていて、創造性と精神病の関係が示されてきている。今回の論文では、ジャズ音楽家40人を調べた結果でもその関連性が示されたという。

ジャズ辞典(the encyclopaedia of jazz, by Feather 1960)などを使い1945年から1960年に活躍したジャズ音楽家40人を調べた。調べた時点(2003年)で既にこの40人(下表)はすべて死去しており、調べる方法としては、彼らについての叙伝、伝記を参考にした。その結果、一般人に比べて、ジャズ音楽家は精神病気質が多く、刺激追求性の性格(sensation seeking)も多かった。


統合失調症(schizophrenia)
40人中の3人が統合失調症だった。バド・パウエルは統合失調症か統合失調性感情障害(schizoaffective disorder)だったと見られる。彼はありもしない恐怖(誇大妄想)に怯え、幻聴を聞き、奇妙な表情を作ったりし、てんかんの症状があった。
セロニアス・モンクは数日間眠らずに歩き回ったり、知人の顔を認識できなかったりした。これは中毒性精神錯乱(substance intoxication delirium)の症状だ。
マイルス・デイビスは誇大妄想の恐怖に怯え、幻聴があった。

気分障害(mood disorders)
40人中の11人が気分障害だった。ポール・デズモンドとビル・エバンスは気分変調性障害(dysthymic disorder)だった。彼らは自尊心が病的に低く(low self-esteem)、悲観的な展望を抱いていた。
他に気分障害があったと見られるのはマイルス・デービス、ギル・エバンス、スタン・ゲッツ、チャールズ・ミングス、ジェリー・マリガン、チャーリー・パーカー、アート・ペッパー、オスカーペティフォード、フランク・ロソリーノ。

不安障害(anxiety disorders)
アート・ペッパーとジョン・コルトレーンは不安障害があった。アート・ペッパーは皿洗いを何度も何度も繰り返し(obsessive compulsive)、血を病的に怖がった。ジョーン・コルトレーンは強迫神経症(obsessive compulsive)の症状があり、病的に練習をし続け、甘いものを病的に食べまくり、完璧なマウスピースを病的に求め続けた。

薬物
40人中の21人がヘロインにより精神的な異常性が見られ、11人はアルコール問題があり、3人(マイルス・デービス、アート・ペッパー、ビル・エバンス)はコカイン問題があった。

刺激追求(Sensation seeking)
40人中の9人は刺激追及の性格が見られた(チェット・ベイカー、チャーリー・パーカー、アート・ペッパー、スタン・ゲッツ、サージ・チャロフ、デクスター・ゴードン、ポール・チャンパーズ、フィリー・ジョー・ジョーンズ、スコット・ラ・ファロ)。刺激追求の傾向はDSM(精神疾患の分類と診断の手引書)のクラスターBパーソナリティー障害(ドラマティック・タイプ人格障害)とだぶる。刺激追求はつまり「抑制からの開放」(disinhibition)を示す。彼らはパーティー好きで、社交的な飲みが好きで、複数のパートナーとセックスし、新しく(しばしば違法な)経験や薬物が好きだ。
具体的に言えば、複数の薬物を混ぜて使用したり、ウイスキーなどの強いアルコールをボトル数本開けたり、何人もの女と短期間に寝まくったり、時に同時に複数の女と寝たり、速いスポーツ・カーに乗ったりする。

ふーん、確かに一般人に比べると、この40人のジャズ軍団では精神病や刺激追求傾向の人の発生率が高いな。ジャズのように創造性の高い仕事の人たちにこういう精神病的なものが見られるのは何かの必然的な関連があるんだろうね。
それとこの論文の結論はあくまでも特定の群によく見られる特定の症例、というだけ。原因と結果を示してはいない。つまり精神的にちょっとおかしい人がよいジャズ音楽家になるとは限らない。そして逆でもない。ジャズ音楽家だからといって精神的におかしいという訳でもない。この辺の原因と結果(cause and relation, cause and effect)は調べるのはとても難しい。それでもいくつか試みている論文があるんで、それはそのうちに紹介したい。
いや、しかしこの論文は、ジャズの一番おいしい時期をさらっとなぞっていて読み物として面白いね。だれかロック・ギタリストとかでもやってくれ。

僕はジャズは趣味程度に聴くだけなんで間違いなどあったらご指摘ください。

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関連する過去の記事:
ブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチ・ボーイズ)の精神病
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今回の研究に使われたジャズ・ミュージシャン、40人
トランペット
 Dizzy gillespie, Fats navarro, Clifford Brown,
Chet Baker (チェット・ベイカーSings),
Miles Davis (マイルス・デイビス Kind of Blue)
 Howard McGhee
テナー・サックス
 Wardell Gray,
Dexter Gordon (デクスター・ゴードンGo)
Stan Getz, Hank Mobley,
John Coltrane ジョン・コルトレーンBlue Train

ベース
Ray Brown, Oscar Pettiford, Charles Mingus, Paul Chambers, Scott la Faro,
トロンボーン
J.J. Johnson, Frank Rosolino, Bill Harris,
バリトン・サックス
 Serge Chaloff, Gerry Mulligan, Pepper Adams,
ドラム
 Kenny Clarke, Art Blakey, Philly Joe Jones, Shelly Manne,
アルト・サックス
 Charlie Parker 映画「バード」
Art Pepper, Paul Desmond, Eric Dolphy,
アルト/テナー・サックス
sonny Stitt
ピアノ
 Bud Powell バド・パウエルThe Genius of Bud Powell, Vol. 1 Thelonious Monk, Erroll Garner, Lennie Tristano,
Bill Evans Trio ビル・エバンス Waltz for Debby

ギター
 Charlie Christian,
ビブラフォン
 Milt Jackson
アレンジャー
 John Lewis, Gil Evans

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元の論文:Geoffrey I. Wills. Forty lives in the bebop business: mental health in a group of eminent jazz musicians. British jouranl of psychiatry. 2003. v.183. 255-259.

検索キーワード:心理学、臨床心理学、病因、sensation seeking, personality psychology, clinical psychology,
黒人の人口を抑えようとする政府の陰謀
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アメリカではまだ人種差別が根強く残っている。今回、500人の黒人(アフリカ系アメリカ人)にアンケートをとったところ、34%は「白人は黒人の数を減らしたいと思っている」にYesと答え、14%は「政府はコンドームの使用を勧めることで黒人の数を抑えようとしている」と思っている、と答えた。

日本人の僕から観ると、そんなのはかなり現実から逸脱した妄想だと思ってしまうんだけれど、根拠があるらしい。この記事によると、政府による黒人の断種政策は1970年代まで続いたそうだ。つい最近じゃないか。アメリカも怖い国だな。

うーん、これは難しい問題だ。アメリカに住む者として、黒人が多い地域は犯罪が多い、というのは生活から来る実感だ。なのでアンケートの結果は実情を示しているとも言えるだろう。かと言って、黒人を減らすことが犯罪を減らしたり、世の中を平和にするとは思わない。それとも、近年の黒人の白人に対する比率が増えていることに対しての危惧を表しているアンケート結果なのかな。

まぁなんにしろ、こういう入り乱れた社会感情の誤解(または理解の仕方)がコンドームの使用状況にも影響を与えて、それがエイズなどの蔓延に繋がるのかと思うと、こういう問題に取り組む社会心理学とかの今後の課題は大きいなぁと感じるよ。

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元の記事の一つ:Conspiracy Theories Affect Birth Control Use by Black Men and Women

検索キーワード:社会心理学、偏見、人種差別、アフリカン・アメリカン、african american, race, racism, bias, prejudice, Sheryl Thorburn, Oregon State University, Laura m. Bogart, Rand corporation, 避妊、政府の陰謀、
統合失調症の薬に疑問
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統合失調症の症状を抑えるのに現在最も使われている手段は薬だ。1955年以前は電気ショック療法しかなかったが、その後、いろいろな薬が開発されている。

1990年代の初頭に開発された新薬「ジプレキサ Zyprexa」、「セロクエル Seroquel」などが登場する。新薬は値段が以前の統合失調症の薬に比べて10倍と高価ながら、副作用が少ないという売れこみのために人気がある。

しかし薬の効果というのは薬を開発した会社の実験によるもののみが根拠で、当然それは公平性に欠ける。そこでアメリカ政府は約43億円($43M)を出資し、これらの薬を含む新薬の試験をした。

5種類の薬を試験した。4つは新薬で、1つは旧薬(トリラフォン, Trilafon)。1460人の慢性的な患者を18ヶ月に渡り調査した。5つの薬はどれも同じくらい効果的だった。適度な処方量の場合は旧薬も新薬も同じ(症状を低減する)効果を発揮した。

ただし副作用では新薬と旧薬で差があった。旧薬では、震え、筋肉の硬化や痙攣など。新薬ではこれらの症状は目立たないものの、体重の増加、血糖値の上昇、コレステロールの上昇などが見られた。

そして5つの薬とも(新薬も旧薬も)患者を満足させなかった。75%の患者は治療を止めてしまった。その理由は症状が改善されない、または副作用のため。

ふーん、新薬はそれなりに旧薬よりは副作用が許容されやすいものになってるんだな。これは論文を読んで数値の差をはっきりと比べてみたいね。ちなみに引用元はこの雑誌。Scientific American Mind:
一部をネットで読める。Schizophrenia Drugs Questioned

ところで薬の効果を開発した会社が試験するというのは確かに信頼できないよな。そのへんはこの本に詳しく書いてある。この本はそのうちに詳しく紹介したい。


Elliot S., Ph.D. Valenstein

Blaming the Brain: The Truth About Drugs and Mental Health


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検索キーワード:心理学、臨床心理、clinical psychology, Donald F Klein, Columbia university, zyprexa, seroquel, 精神分裂病、schizophrenia drugs, Jeffrey A Lieberman, prozac,

今年もよろしくお願いします。
みなさん、明けましておめでとうございます。昨年は自分にとって非常に充実した年になりました。その大きな理由として、このブログを通じての交流が僕の成長を助けてくれていたのが僕としてはとても大きかったと思います。それと大学院などを通じての友人関係にも恵まれた年だったんで、とても満足のいく年でした。

今年は、昨年に築いたものを基盤として交友関係を更に深くしていければ良いな、と思っています。

折角の機会なんで、新年の抱負なんかを書いておきます。今年の第一の目標は論文を4つ書くこと。そしてその全てが科学雑誌に出版されますように。その為にはブログの長期休載も厭わないよ(この点は既に問題なしだな)。

あとは小さな目標として、今年は日本に遊びに行きたいなぁ。まぁ、今年もちんたらとやっていきますので応援よろしくお願いします。

短期記憶、中期記憶?、長期記憶
fruitflys.gif

記憶が脳に書き込まれる過程は、現在の心理学の一般的な理論では2段階だ。つまり、短期記憶(数秒から数十秒)で覚えたものが長期記憶に入れば、その記憶は半永久的に脳に残る。今回の学説から考えると、少なくとももう一段階あるのかもしれない。

ハエ(Drosophila, fruit flies)を使い、物事を記憶する時に脳がどう変化するかを調べた。ある匂いを嗅ぐと電気ショックが来ることを古典的条件付け(パブロフの犬式の関連付け)を使って記憶させた。

すると、記憶してから最初の5~7分間は脳のうちの匂いに関する部分(insect's antennal lobe)の神経細胞が活動していた。しかしその活動は7分程度で治まり、そして次には別の部位が活動する。DPM神経細胞は記憶後の30分から2時間に活動が見られた。

この研究を僕なりに解釈すると、記憶は長期記憶として半永久的に脳に定着する前に、別の過程を経るという見方もできるだろう。これは先週の記事「練習の後はしっかり休む」とも一致する。先週の記事の場合は筋肉の記憶だったけどね。匂いの記憶でも筋肉の記憶でも短期記憶と長期記憶の間の過程があるのが面白いね。

しかしひとつのことが分かる(または仮定されると)と疑問が山ほど出る。他の感覚から入ってくる情報ではどうなんだろうか?中期記憶があるとしたら記憶は3段階だけなのだろうか?もっと多くの段階に分けられるのだろうか?それは一つの道筋なんだろうか?それとも短期記憶から一部は長期記憶に直接行くのだろうか?長期記憶が活動するまでの30分(ハエの場合)は記憶はどこを辿っているのだろうか?人ではこの時間はもっと長いのだろうか?

その辺は情報を見つけ次第追っていきたいです。

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関連する過去の記事:
同じ研究者の昨年の研究「記憶の過程を顕微鏡で見る」(しんりの手)
記憶の仕組みに新理論。記憶は複製、消去されている。(しんりの手)
思い出した直後は忘れやすい(しんりの手)
練習の後はしっかり休む(しんりの手)

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検索キーワード:心理学、認知心理学、short term memory, STM, long term memory, LTM, working memory, cognitive psychology, 神経科学、認知神経心理学、生物学、分子生物学、細胞生物学、dorsal paired medial (DPM) neurons、感覚記憶、
プロザックの効果が数週間かかるのは軸索の形成日数か
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抗うつ剤(antidepressant)は服用し始めてから2週間ほどしないと効果が現れ始めない。なぜこんなに日数が掛かるのかは未だメカニズムが解明されておらず、不明だ。しかし今回の研究を見ると、それは軸索などの神経組織が形成される日数なのかもしれない。

抗うつ剤で有名なものにはプロザック(prozac)、ゾロフト(Zoloft)、パクシル(paxil)などがある。しかしこれらの薬がなぜ効くのかは分かっていない。効くから使っている、というのが現状だ。今回の研究はそのメカニズムの解明に一歩迫るものだ。

不可解なことの一つに、効用の表れる時間差というのがある。抗うつ剤は一般に、セロトニン(serotonin)などの神経伝達物質(neurotransmitter)の数を増減することで鬱の症状を制御すると言われてきていた。しかし薬を服用し始めれば神経伝達物質は即日で変化が見られる。なので鬱の症状も即日で制御できそうなものなのに実際は鬱を抑えるのには2週間から4週間を要する。

今回ラットの脳の発達を観察したところ、抗うつ剤が前頭葉(frontal lobe)の軸索(axon)の発達に関わっていたようだ。なので抗うつ剤の効用が最低でも数週間を必要とするのは、薬が軸索などの形成を促し、その形成に数週間掛かっているのかもしれない、というのがこのニュースの内容。

面白いニュースだ。つい2週間ほど前に院生の同僚とこの話をしたばかり。プロザックの悪い噂(これはそのうちに改めて書きます)とか、なんで効果が数日で現れないのか、とか。神経科学は日進月歩で、ついこの前まで疑問だったことが今日にはもう解明への道を開いちゃってるんだもんな。神経科学ってすごいなぁ。

元のニュース:Johns Hopkins Medicine: POPULAR ANTIDEPRESSANTS BOOST BRAIN GROWTH, HOPKINS SCIENTISTS REPORT

検索キーワード:心理学、神経科学、認知心理学、クリニカル心理学、臨床心理学、アンチ・ディプレッサント、ジョンズ・ホプキンズ、Vassilis Koliatsos,
練習の後はしっかり休む
Bill20Evans1.jpg

筋肉記憶(motor memory)というのがある。運動の記憶と訳されている場合もある。これは筋肉の特定の動きを覚える記憶で、技術の記憶とも言える。自転車の乗り方などがこの筋肉記憶の一例だ。

今回の研究では、新しい筋肉記憶を覚えようとした時の神経細胞の動きを追うことで、記憶の定着度を見ようとしている。

これによると新しい筋肉の動きの練習をした後の6時間は、この筋肉の動きが記憶として脳にまだ定着していない。なので筋肉の別の動きを学習すると、一つ目の筋肉記憶は薄れたり忘れられたりしてしまう。
これが6時間を越えると筋肉記憶は定着し、10年経ってもその記憶を再現できるという。

ふーん、これは応用価値が高くて面白い研究だな。

まず記憶の定着について。記憶した後に睡眠をとると覚えられる、という研究があるけれど、あれは睡眠自体が良いという理由の他に、単に惑わす別の記憶を仕入れないで時間を置くことが良いのかもね。

それとこの研究は運動部の練習に応用できそうだな。例えば柔道の投げ技とかを覚える時には一日に一つの技だけを練習する。練習時間の一番最後に新しい技を覚えて、その後は別の投げの動作を行わない、とかね。または変な癖が付く前に、別の動作を教えてその変な癖を記憶に定着させないとか。

上の応用例はちょっと飛躍してる気が自分でもする。今回のような基本的な研究からはこの応用の効果には疑問があるけれど、いろいろと将来が楽しみな研究分野。ピアノの稽古とか野球の練習とか。野球とかに企業は年間に何十億円も払ってるけど、こういう研究にもお金を注いでくれないかな。と、さりげなく自分の将来の就職先を増幅させる発言をしておく。

学期末で未だに激務なんでコメントやメールの返事はもう少し待ってください。皆さんコメント、メールありがとうございます。

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元のニュース:Practice makes perfect, but so does taking breaks

検索キーワード:心理学、運動、知覚心理学、認知心理学、運動心理学、スポーツ心理学、skill-based performance, Henry Holcomb, University of Maryland, PET, positron emission tomography,
海馬は記憶の形成と再生に使われる
Hippocampusw.png

この研究者はサル(monkeys)を使って、記憶を使う時の海馬(hippocampus)の反応を調べた。海馬は記憶を形成するのに使われる部分として知られているが、この研究によると記憶を思い起こす(retrieve)時にも海馬は同様の反応をした。このため、海馬は記憶を形成する時のみならず、記憶を思い起こすのにも使われているようだ。

うーん、わからない。こういった新しい研究(この研究は2004年)でも海馬は記憶の形成に使われるって解釈だよな。じゃあ先月紹介した海馬を除去しても学習できる人は何なんだろう?今回の研究を素直に信じれば、海馬を取っ払ったら新しいことの学習や昔の記憶の再生に支障が出ることになるんじゃないのか?

ちなみに僕のこの解釈は、脳の局在化(localization, phrenology)という考え方で、脳の部分部分は特定の機能を持っている、という考え方。しかしこの脳の局在化という考え方は最近は否定され始めてきている。この件に関してはとても面白い本(下記)をいま読んでいるので、近いうちに紹介予定。今年読んだ数百冊の本の中でも一番か二番に面白い本。関連する記事(しんりの手アメブロ

ところで今回の研究者はNYU(ニューヨーク大学)の人なんだけど、NYUとかのしっかりした心理学部の研究者ならきっちり最新の動向(海馬は無くても記憶ができるかもしれないということ)を抑えて言及しておいて欲しいな、というのが個人的な気持ちだ。



William R. Uttal

The New Phrenology: The Limits of Localizing Cognitive Processes in the Brain (Life and Mind: Philosophical Issues in Biology and Psychology Series)

ユータル「新・脳の局在化」

さて、今は学期末で本当に忙しいんで、もうへろへろです。僕が学部にいた時は学期末は授業に追われている感じだった。あの頃は英語もろくに分かんなかったんで授業に付いていくのが精一杯って感じだった。

それに比べて院生になると学期末は楽しみが増えて困るんだよね。この2週間くらいで10頁くらいのペーパーを6個ほど書くんだけれど、ペーパーの内容(=授業で習った内容)が興味深すぎて、つい関連のある論文を読み込んでしまう。授業から少し脱線したそういう心理学の読み物の方が自分の研究に関わりが深くて面白いんで、時間を奪われまくってます。

他の留学生の人たちはどうなんだろう。僕は学問を楽しむまでには語学的に何年も掛かったけれど、それでも心理学はやはり英語の文献が最先端だと思うんで、英語で学んできて良かったなぁと最近しみじみと感じているよ。

今は記事を書くのに手一杯ですが、コメントには時間ができた時に答えさせていただきます。皆さんいろいろなコメントをありがとうございます。

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関連する過去の記事:
「加齢と記憶」ラーズ・バックマン(2001年)
記憶の種類とその衰え方の差について。

海馬を切除しててんかんも直って、学習もできる

新しい記憶を覚えられなくても習慣は覚えられる

不必要な情報を無視する能力を測る
短期記憶の容量は少なく、視覚の情報を蓄えるのなら3つか4つしか覚えて置けないと言われている(過去記事:人は魔法の数7±2ほど短期記憶できない)。
短期記憶のこの限界のために、人は無関係の物事を無視する能力が必要になる。逆に言えば、関係ある情報を選択する能力(注意を向ける対象を見極める能力)だ。自分にとって大事な情報を選択するというこの能力には個人差がある。そしてこの能力は、記憶の能力の中でも特定のものの容量によってかなり予測できた、というのがこの論文の内容。

これは是非とも読んでみたい論文。今は学期末で忙しくて読む時間が無いけど。

学校の成績が良いとか悪いとか言うのは、何に集中して聞くべきかが分かる能力なのかもしれない。この研究を元に将来は、然るべき物に注意を向けやすいように教育を変えていくことで人がより学びやすい環境なんてできると嬉しいな。

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関連する本:


Susan Gathercole

Short-Term and Working Memory


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元のニュース:
Nature 438, 500-503 (24 November 2005) | doi:10.1038/nature04171Neural measures reveal individual differences in controlling access to working memory
Edward K. Vogel, Andrew W. McCollough and Maro G. Machizawa

3人目の研究者の名前はこの分野で偶に見るけど、日本の人なんだな。
彼のウェブ:
Maro G. Machizawa
雑誌ネイチャーに論文が掲載されるなんてすごい実績。臨床心理学から認知心理学に移った人なのかな。今後も追ってチェックさせてもらいます。

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過去の関連する記事;
心理学の実験。集中力を測る。(しんりの手

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検索キーワード:インパクト・ファクター、impact factor, 認知心理学、作動記憶、working memory, attention, inattention, inhibition, 教育心理学、知覚心理学、注意、注意抑制、
3歳までのテレビは学習能力低下。それ以降は学習促進。
child-tv.jpg

子供にテレビを見せることの悪影響は今までもニュースを紹介してきているけれど、3歳を過ぎるとテレビは好影響を与えるかもしれない。

この研究者は約2000人の子供を数年に渡り追跡調査し、テレビを見ることが6歳時の能力にどう影響するかを調べた。3歳より前の子供では、テレビを見ることと6歳のときの認知能力の低下の関係が見られた。反対に、3歳から5歳の子では、テレビを見ることと6歳の時の認知能力の発達の関係が見られた。特に3歳から5歳の子の認知能力でテレビを見ることとの関連が見られたのは、読書認識(reading recognition, これは文を読んだ時に以前に見たかを認識できることかな)と短期記憶(short-term memory)だった。算数や読解力に差は見られなかった。

これは納得できるね。言葉を一番最初に覚える時には少数の人から集中して教わった方が覚えやすい。なので3歳くらいまでは特に両親から集中的に言葉を聞かされた方が言葉を早く覚えるのだろう。
似たようなことで、バイリンガルというか父親と母親で別の言葉を教えると子供は言葉を話し始めるのが遅いという。これは刺激が多様すぎて覚えるのに手間取ってしまうのだろう。
言語の基礎を3歳くらいで覚えてしまえば、あとは刺激(言葉)にさらされる時間が多いほど覚えていくのだろう。

学習には3歳以降のテレビの視聴は良いのかもしれないけれど、それでもテレビの弊害は多数報告されているので、僕個人としては3歳を過ぎても子供にテレビは見せたくない。下記に関連記事のリンクを張ったけれど、テレビを見るほど、性格や体に悪影響があると言われている:いじめっ子になりやすい、近視になりやすい、肥満になりやすい、成人病になりやすい、など。

子供って接する人やテレビにどんどん影響されていくんだよね。それを考えると、僕に子供がいたら僕だけに影響されて狭い考え方になってしまったりするのは怖いな。かと言ってテレビを野放しに見せるのも嫌だし。子供にまねして欲しいような僕の親しい友人と近所に住むっていうのが僕の今の理想かな。今、そんな友人が何人いるか真剣に数えちゃったよ。

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関連する過去の記事:
この研究者(Frederick Zimmerman)のほかの研究の紹介。テレビを見るといじめっ子に。(しんりの手)

近視は生活習慣から(しんりの手)

テレビは年間2万人を殺す-ドイツ(しんりの手)

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元のニュース:
Children’s Television Viewing and Cognitive Outcomes

検索キーワード:心理学、発達心理学、児童心理学、性格心理学、認知心理学、知覚心理学、社会心理学、教育心理学、
瞑想で脳の灰白質が増える
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瞑想している人は灰色の脳細胞(灰白質、grey matter)が多かったという。

瞑想はいままで、脳の休め方を変えると思われてきていたが、活動時の脳にも影響を与えているようだ。瞑想は脳皮質を厚くするようなので思考回路に良い影響を与えると思われる。

これは仏教の瞑想を毎日40分やる人20人を一般人と比べた結果。彼らは普通に仕事も家庭もあるが、長い年月の瞑想経験がある。僧侶ではない。

MRI(磁気共鳴影像法)の結果、彼らの脳皮質のうち、知覚、聴覚、視覚を司る部分が厚かった。特に右半球に違いが見られた。また、瞑想は加齢による脳皮質の減少を遅くする可能性もあるという。

へー、面白いね。脳の長年の使い方によって脳の構成が変わるなんて。いままでも学歴が高いと脳の衰えが遅いとかは言われてきたけれど、瞑想でも違いが出るなんて興味深いね。

ちょっと疑わしいのは、瞑想を日課にする人を使った研究というのは混同要素が多いということ。彼らは瞑想するだけでなく、食生活も節制しているし、喫煙もしなさそうだしな。僧、僧侶(monk)、女僧(nun)の研究は心理学では妥当性に欠けるというのが一般的な見方だ。今回は僧ではないのでもう少し一般的な人の結果に近いのかもしれないけれど、それでも同じ疑問にさらされるだろう。でも実際の論文を読んでみたくなるニュースだな。

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元のニュース:Meditation associated with increased grey matter in the brain

関連する過去の記事:
男は灰色、女は白色の脳細胞が多い(しんりの手アメブロ
精子の提供者が激減!身元公開のせい
spermbankn.jpg

精子の提供者が2000年以降減っている。これは法律が変わって、精子提供者が匿名ではなくなってしまったせいだという。

精子提供者の横顔が書かれている。あれ?日本語でも横顔って言うよね?英語のprofileにはプロフィールの他に横顔って意味もあるんだけど、これじゃ英語の直訳じゃん。
88%は36歳以下
過半数は恋人のいない学生
85%は未婚で4分の3は子無し。
3分の1は提供センターに来る途中で引き返してしまう。
3分の2は拒否される。うち85%は精子の質が合格点に達しないため。
こういった厳密な関門をくぐり、精子提供者となれるのはたったの4%以下だ。

検査厳しいんだな。こういう低い確率を見ると闘志がメラメラと湧いてくるよ。金にも困っているし条件はばっちり。今度試してみようかな。僕は精子提供には賛成。僕の遺伝子を継ぐものがどこかで生きてくれるなんて素晴らしい案だ。でも生物学的な親になるよりも育ての部分にも関わりたいから普通に家庭を持ちたいね。

それにしてもこの統計は驚き。既婚でも精子を提供すんのかよ。金のためか?そんなことしてないで嫁さんを孕ましておけよ。あと、大学生は貧乏だから精子で金を手に入れるのは常套。僕の友達もやっている。

傾向としては、精子提供者の数は激減している。今回アンケートに答えた1994年から2003年に精子を提供した1100人の中で、1994年に提供したのは175人だったのに2003年に提供したのは25人にとどまった。あーそうなの。困ったら僕にも声を掛けてくれていいよ。身元の特定も気にしないよ。でも養育費は払えないけどね。

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元のニュース:Sperm donor crisis in the UK

関連するブログ:
15歳、匿名精子提供者の「父」を探し出す(旬のイギリスさん
もともと匿名性なんて怪しいもんなんだな。今回の匿名性を取っ払う方は現実に即しているとも言えるか。
容器から溢れ出ている方が多いと感じる
icecream.jpg

人間の知覚というのはいい加減なもんで絶対的な量を比べるのには向いていない。人間はどちらかというと相対的な比較を常にしている。

例えば200グラムと250グラムのアイスクリームがあれば250グラムの方が多いというのは明瞭だ。しかしこれが見せ方によって、人の知覚を狂わせてしまう。一方は150グラム用のコーンから溢れ出ている200グラムのアイスクリーム。もう一方は300グラム用のコーンに余裕を持って収まっている250グラムのアイスクリーム。

こういう見せ方をすると、人間は溢れ出ているほうが多いと知覚してしまう。まぁ2者を並べて見せればばれてしまうらしいけれど。

この心理的な錯覚は飲食店とかでも使っている店が多いよね。大きい皿によそうよりも、普通の皿に溢れてよそわれている方が客としては幸せになる。そういや昔は日吉駅の近くの超大盛りカレー(500円)をよく食いに行ったな。量は僕としては大したこと無いんだけど、あのビジュアルをみると幸せになるんだよ。溢れそう(というか実際にこぼれている)ルウと、その下にうずたかく詰まっているご飯。あー書いているだけで腹減ってきた。

ビジネスなどに応用の広い心理学だ。あとニュースには詳しいことは書いていないけれど、実際の論文の方にはサラリーと満足度の関係なんかも書かれている。

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元のニュース:More is not always better

検索キーワード:心理学、知覚心理学、認知心理学、decision making, Christopher hsee, business, 商業心理学、ビジネス心理学、意思決定、東急東横線、
睡眠不足の児童は授業に集中できない
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睡眠時間が8時間以下の児童は、教師から見て授業に集中していないと評価された。

6歳から12歳の児童74人を対象に、睡眠時間と授業での態度の関係が調べられた。児童の授業態度は教師によって評価され、そのとき教師は児童の睡眠時間を知らなかった。つまりブラインド・テスト形式で行われた。

この研究の間、それぞれの児童は3週間の異なった睡眠時間を経験した(多分、順不同で)。睡眠不足の一週間(1年生,2年生は8時間以下、3年生以上は6時間半以下)、睡眠がちょうど良い長さの一週間、睡眠過多の一週間(10時間以上)。

その結果、睡眠時間が8時間以下の児童は概して学習能力の低下が見られた。問題があった点は、習ったことを思い出すこと、新しいことを覚える作業、集中力を要する作業などだった。

概略は面白い研究だね。確かに睡眠時間が減ると児童の学習能力は落ちると思う。この分野の研究にありがちな相関関係だけの研究で終わっていないところが良い。相関関係だけだと、睡眠時間が少ないから学習能力が低いのか、学習能力の低い子が睡眠時間を少なくしか取れないのかが分からないから。この研究は、ちゃんと条件を制御(コントロール)しているので、因果関係ははっきりしている。

難点を挙げれば、睡眠時間を一週間という短い期間で次の条件に変えていったことだな。睡眠時間は慣れの問題というところが大きいので、大変なのは最初の5日間くらいだけ。それが癖になれば、6日目ぐらいからは、その短い睡眠時間に対応できるようになる人が多い。なので、この実験のように睡眠時間を減らされれば最初の一週間はそれが成績に現れるのは当然。むしろ2週間目のデータだけを調べた方が良かっただろう。

それと児童の学習能力の測り方も客観的ではない。教師は児童の睡眠時間を知らなかったのでブラインド・テストではあるのだが、それでも教師が正確に学習能力を測れている訳ではない。欠伸をする生徒はたとえ成績が良くても駄目な生徒だと見られがちだ。なので、客観的に学習能力を測りたいのなら別の測定方法が良いだろう。

その点を差し引いても面白い研究なので、次回の研究にとても期待しているよ。って言うか研究ってこんなもんだよな。人の研究の批判は簡単にできるけど、自分の研究を隙の無いものにするのは大変なんだよ。ほんとに。

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元のニュース:Less sleep impacts directly of children's performance at school

検索キーワード:心理学、教育心理学、認知心理学、注意、Gahan Fallone, attention, blind test,
猫は甘いものに無関心
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猫は甘い味を知覚できないことが以前から知られていたが、それは遺伝子のせい。炭水化物(糖質、carbohydrates)を知覚する遺伝子が働いていないので、甘さを感じられないのだという。

甘さが分からないなんて可哀想だな。実家にいた頃は飼っていた猫や犬にビールや日本酒をあげてみたりしてたけど、甘さが分からないんなら、猫にとっては味もまた別物だったんだろうな。ねこまんまとかも炭水化物の味が分からないんじゃ美味しくないだろうなぁ。

ていうか根本的に、進化の過程で炭水化物を知覚できない種が生き延びてきてあれだけの運動能力を維持できているんなら、人間も炭水化物無しで健康に生きられるのかなぁ。まぁ、僕は白米を諦める気なんてさらさら無いけどね。

元のニュース:Genetic Studies Make Purrfect Sense: No Sweet Treats For Kitty

コンドームを使わない女は幸せ
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恋人との性行為中にコンドームを使わない、または使う頻度が低いほど、女性は幸せだったという。

この研究者(Gordon Gallup at the State University of New York)は293人の女性の生徒にアンケートを実施した。パートナーとのセックスでコンドームを使う頻度や、いまどのくらい幸せかなどが質問内容だった。

その結果、自己申告での幸せ度が一番高かったのは、パートナーとのセックスでコンドームを使わない群(ゴム無し群)だった。2番は時々使う群で、いつも使う群(避妊群)は幸せ度が最も低かった。

このニュースでは考えうる理由の一つが挙げられている。精子にはテスタストロン(testosterone)やエストロゲン(oestrogen)などのホルモンが含まれていて、それらのホルモンがは気分は幸せにすると言われている。それが膣から吸収される、と。

え?ゴム無しで中出しまでしてんの?そりゃー違うんじゃないの?コンドーム無しの群みんなが中で出すわけじゃないでしょ。ま、確かにアメリカの女の子たちは避妊パッチとかしてるコも多いけどね。男はこういうのを言い訳に使うよな。中で出していい?その方が女の子は幸せになるんだよ。とかね。

でも僕はこれはそういう因果関係は無いと思うよ。逆の方向の因果関係でしょう。幸せというかあまり心配しないたちだからコンドームを使わない。心配だからコンドームを使う。つまり、コンドームの使用が性格(や幸せ度)を決めるのではなく、性格がコンドームの使用頻度を決めているのだと考えるのが妥当でしょう。相関関係を使った心理学の罠だな。

もしこの研究者がこれを踏まえたうえで、それでもコンドームの使用が性格や幸せ度を変えているんだ、と言うんならそれは面白いな。

研究の続き。ゴム無し群はセックスをしない時期が長くなるほど、鬱になったが、避妊群ではセックスの期間は鬱の発生に影響を与えなかった。ただし避妊群は常時から鬱や自殺未遂が頻繁に見られた。

この研究者はコンドームの使用が性格や幸せ度を変えると信じているようだが、それでもセーフ・セックスは大事だと言っている。避妊は必要ならするべきだし、性感染症の予防にもコンドームは大切だ。

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関連する過去の記事:
エイズになる危険性(The Whole Earth Catalogより)(しんりの手アメブロ

元のニュース:BBC: Semen 'makes women happy'
人相学1:目の離れ具合は寛容を示す
人相学を研究している人のテレビを見た。真偽はまだ怪しいんだけど紹介しておくよ。えーと、見たテレビ番組は「ドクター・ドリューが語るセックス」(Strictly sex with Dr. Drew. Discovery Health channnel)。タイトルを日本語にするとやらしくなるけれど、医学博士だかのドリューさんが科学的な研究を紹介して男女の恋愛を語るものらしい。夕べは心理学部の院生が集まってタコス・パーティーをやったんだけど、その時にたまたまこの番組を見たんで、シリーズ的にどういう流れなのかは知らないけどね。

テレビ番組中では人相学の専門家としてナオミ・ティックル(Naomi Tickle)という人が出ていた。人相学を学術的な英語で言うと読顔学(face reading、または一言でpersonologyとかPhysiognomy)というらしい。テレビ番組の中ではあまり面白いことを言わなかったのだが、ネットで調べると興味をそそることが書かれている。

寛容さ(tolerance)は両目の間の距離に現れる。両目が近いと我慢が短くすぐに反応してしまう。両目が離れていると寛容があり、ゆったりと寛ぐタイプだと言う。彼女のウェブのこの項目

彼女の本にはこんなことが目の幅、口の位置、などに付いて延々と書いてあるらしい。


Naomi R. Tickle

You Can Read a Face Like a Book: How Reading Faces Helps You Succeed in Business and Relationships



信憑性には欠けるけど、僕はある程度信じるよ。両目が近いってのは肉食獣が持っている傾向だ。眼前に集中できる。両目が離れているのは草食動物の特徴だ。周囲を見渡して警戒できる。ここからは科学的根拠がまだ示されていない説明なんだけど、体育会系の人はある程度は骨格や目の位置が肉食獣的になるのではないかと僕は個人的に考えている。または逆の関係で、目の位置が寄っているので、ボールを追ったりする動きに長けている。更にここに別の(想像上の)相関関係を加えてみる。肉食系の動物の方がせっかちで、激情系の性格な気が僕個人としてはする。草食動物はおっとり。なんで、目が寄っている人はせっかちで、目が離れている人はおっとり。ただし、科学的な説明はなく僕の想像の域を出ない上に、相関関係を2つ足したらほとんど相関しなくなるのが普通だ。

まぁ面白い話なんでこの話は見かけたらまた報告するよ。

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関連する過去の記事:
時間が無いんであとで更新。

ついでに甘えてもう一つ。関連する外部記事があれば参考リンクを貼らせていただきます。自薦、他薦でメールください。
新しい記憶を覚えられなくても習慣は覚えられる
海馬(hippocampus)が壊れると新しい記憶を覚えられなくなってしまうと言われている。しかし、そんな患者でも何回も繰り返し学習を行うことで、新たな記憶を植えつけることができたという。この研究者はこれを習慣学習(habit learning)と呼んでいる。

新しい記憶を覚えられなくなる症状(amnesia)の患者2人を使い、二つの図形のうちの特定の一方の図形を覚えるという作業を数週間繰り返した。数週間繰り返しても、記憶を形成できないので2人ともこの試験をやるのは初めてだと毎回思っていた。しかし結果は違った。数週間後に正答率は2人それぞれ95%と100%にまで上がってしまった。なので新しい記憶を覚えられないというのは一概に言えることではなく、記憶の種類によって覚えられるものと覚えられないものがあるようだ。

mirror_drawing.jpg


この研究と似たことは前から示されているね。鏡に映した絵をなぞる練習(上の画像)で、記憶障害者は練習した事実を毎回忘れていたけれど、技だけは進歩していった。その時は、技能の記憶というのは事実の記憶とは別の回路を使っているので、事実を記憶できなくても技術は新たに記憶できていた、という説明がされていた。

今回は技術の記憶よりもよっぽど事実の記憶に近いものだ。図形を覚えていたのだから。このニュースから僕が勝手に理由付けをしてみる。

僕の解釈では、覚えられた経験というのは単純な画像の情報だ。覚えられなかった経験というのは2つあって、この画像を見たという記憶と、この練習をしたという記憶だ。なので新しい記憶を覚えられるというのは、新しく入ってきた情報にタグ付けをして整理する技術なのではないだろうか。図形の情報は単純なのでタグを付けなくても繰り返し経験すれば記憶に残るだろう。画像を見たという記憶や練習したという記憶は複雑なのでタグを付けないと記憶に残らない。ま、論文を読んだわけでもないんで、かなり適当に語ってるんだけどね。

記憶なんて普段は全く意識しないけど、記憶の種類によって事象に差があるのってすごく不思議だよ。

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過去に書いた関連する記事:
「加齢と記憶」ラーズ・バックマン(2001年)
記憶の種類とその衰え方の差について。

海馬を切除しててんかんも直って、学習もできる
この辺は僕が読んでいた教科書の何年も先を行っている。脳の理解の進み具合って速いんだなぁ。


19年間の昏睡から目覚め、話し始める
ここにも新しいことを覚えられない患者が一人。

元のニュース:Habit Leads To Learning, New VA/UCSD Study Shows
作業負荷をリアルタイムで測る
人間が作業をしている時にどのくらい余裕があるかを示す一つの目安が、作業負荷だ。作業負荷が高ければ他のことをする余裕もないし、だいたい今やっている作業でもエラーが起きる可能性が高い。

作業負荷はコンピューターのCPU使用量とほぼ同じ案と言える。ウィンドウズXPであれば、CTR + ALT + DELを押して、パフォーマンスのタブを開くとCPU使用量がリアルタイムで見れる。

今回の研究は人の作業負荷をリアルタイムで見ようと試みたもの。

この研究者は12個の様々なリアルタイム測定値が作業負荷をどのくらい予測できるかを調べた。下のグラフのX軸が12の測定項目で、Y軸の高さが高いほどその測定項目が作業負荷を予測できる。3人の被験者、1,2,3、を使った実験だったが、この実験では個人差が大きく、3人とも一致した項目(例えば項目3)もあれば、3人ばらばらの項目(例えば項目7)などもあった。

GUHE.jpg


X軸の項目1は心拍数だ。被験者1の場合は心拍数が非常に高い確率(0.9)で作業負荷を予想していた。しかし被験者2と被験者3では心拍数は低い確率(0.25程度)でしか作業負荷を予想しなかった。

面白い結果としては、測定項目3のマウスを握る時の指の力の入れ具合が作業負荷を如実に予測しており、3人の被験者とも0.85以上の予測関係を示した。

個人差が大きいものの一般的な結果として、作業負荷が高くなるほど、まばたきが減り(項目5)、頭を動かす回数が減り(項目11)、口を開ける回数が減り(項目10)、心拍数が上がった(項目1)。

応用性が高く、即実用できそうな面白い研究だな。例えば車を運転してる時にハンドルにセンサーを仕込んだりして上記の幾つかの項目を測る。で作業負荷が高いと判断されたら運転者はそれ以上の物事を処理できない状態だと思われるので、車は自動的に速度を落として安全を確保する。とか、教育の現場なら生徒の反応をリアルタイムで見て、作業負荷が高くなれば、教師は授業の速度を落として生徒が付いて来られるようにする。とか、人と打ち合わせをしてる時に、口の開け方や目の反応を見て相手の作業負荷具合を見極める、とかね。

この研究を見ると、ポリグラフ(嘘発見器)の研究を思い出すな。原理は似たもので、体の反応から人の脳の活動を見るもの。ただし嘘発見は正確性が低い。その話はまたの機会に。

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元の論文:Markus Guhe et al. (2005) Non-intrusive measurement of workload in real-time. Proceedings of the human factors and ergonomics society.

検索キーワード:心理学、認知心理学、2-BACK TASK, nasa-tlx, multiple resource theory, c. wickens 1992. cognitive workload, task load, ACT-R, Bayesian Network modeling,

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